大阪地方裁判所 平成10年(ワ)7444号 判決 2000年8月31日
原告
株式会社シマノ
右代表者代表取締役
【A】
右訴訟代理人弁護士
野上邦五郎
同
杉本進介
同
冨永博之
右補佐人弁理士
【B】
同
【C】
被告
ダイワ精工株式会社
右代表者代表取締役
【D】
右訴訟代理人弁護士
勝田裕子
右補佐人弁理士
【E】
同
【F】
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、別紙物件目録(一)ないし(三)記載の中通し竿を製造、販売してはならない。
二 被告は、その本店、営業所及び工場に存する前項の各物件の完成品及び半製品並びにその製造に必要な金型を廃棄せよ。
三 被告は、原告に対し、金三二九六万五〇〇〇円及び内金二二一二万五〇〇〇円に対する平成一〇年七月二五日から、内金一〇八四万円に対する同年一二月一日から、それぞれ支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要等
一 事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、被告が製造、販売する別紙物件目録(一)ないし(三)記載の中通し竿は、原告が有する特許権に係る特許発明の技術的範囲に属し、その製造、販売は右特許権を侵害するとして、右中通し竿の製造、販売の差止め及び損害賠償等を請求している事案である。
二 当事者間に争いのない事実
1 原告の有する特許権
(一) 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許請求の範囲請求項1の発明を「本件発明」という。)を有する。
発明の名称 中通し竿
登録番号 第二七四〇六三八号
登録日 平成一〇年一月二三日
出願日 平成六年一二月二七日(特願平六ー三二四八〇八号)
公開日 平成八年七月九日(特開平八ー一七二九八〇号)
特許請求の範囲 別添特許公報該当欄記載のとおり。
(二) 本件発明の構成要件を分説すると、以下のとおりである。
A 繊維強化樹脂からなり内部に釣糸通路を有する竿体と、
B 前記竿体とともに繊維強化樹脂で一体成形されて前記釣糸通路の内面に螺旋帯状に配置され断面台形状で上辺角部に弧状部を有する釣糸支持突条とを備えた
C 中通し竿。
(三) 本件発明の特許出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。以下、本件明細書の記載を引用、指摘するときは、その段落番号に合わせて「【0001】」等と記載する。)には、本件発明の作用効果として、次のとおり記載されている。
本件発明の中通し竿は、螺旋帯状をなす釣糸支持突条が竿体とともに繊維強化樹脂で一体成形されているので、釣糸支持突条を別部材で構成するのに比べて製造が容易であり、しかも、釣糸からの接触抵抗力が加わっても釣糸支持突条が剥がれたり損傷したりし難い。(【0013】)
また、釣糸支持突条が断面台形状であるので、断面矩形状の場合などに比べて機械的強度及び耐変形性が高まり釣糸支持突条の剥がれや損傷が防げる。また、断面台形状の上辺の平坦面に釣糸が接触し、釣糸との接触長さが適度に確保されるので、点接触の場合に比べて接触個所に生じる応力が小さくなる。その結果、接触個所の摩耗が小さくなり、過大な応力で釣糸が損傷するのを防げる。
(【0014】)
2 被告の行為
(一) 被告は、別紙物件目録(一)ないし(三)記載の中通し竿(以下、それぞれ「イ号物件」、「ロ号物件」、「ハ号物件」といい、これらを併せて「被告製品」という。但し、被告製品の商品名、構成a、cについては争いがないが、構成bについては、後記のとおり争いがある。)を製造、販売している。
(二) 被告製品は、本件発明の構成A、Cを充足する。
三 争点
1 被告製品の構成
2 被告製品は、本件発明の構成要件Bを充足するか。
3 原告の損害額
四 当事者の主張
1 争点1(被告製品の構成)について
【原告の主張】
被告製品は、以下の構成を有する。
a 炭素繊維に樹脂を含浸させた炭素繊維強化樹脂からなり内部に釣糸を挿通する管状体本体(1)と、
b 前記管状体本体(1)とともに硬化前の樹脂含浸炭素紐体で一体成形されて釣糸通路(2)の内面に螺旋状に配置され断面台形状で上辺角部に弧状部(3)を有する突条体(4)とを有する
c 中通し竿。
【被告の主張】
原告の主張のうち、被告製品が構成a及びcを有することは認め、構成bのうち、被告製品の突条体が、断面台形状で上辺角部に弧状部を有するとの点は否認し、その余は認める。被告製品の突条体の断面形状は、別添写真のとおりである。
2 争点2(構成要件Bの充足性)について
【原告の主張】
(一) 被告製品の「突条体(4)」は、釣糸通路内周面において釣糸通路を挿通する釣糸を支持するためのものであるから、本件発明の「釣糸支持突条」に相当する。また、被告製品の「硬化前の樹脂含浸炭素紐体」とは、「炭素繊維等の補強材に熱硬化性樹脂を含浸させた硬化前の紐状のもの」であり、いわゆるプリプレグであるから、本件発明の「繊維強化樹脂」に含まれる。さらに、竿体(管状体本体)を形成するプリプレグと、本件発明の「繊維強化樹脂」あるいは被告製品の「樹脂含浸炭素紐体」とは、いずれも中通し竿の製造時には焼成されて硬化して竿体(管状体本体)と一体化するものである。したがって、被告製品の「前記管状体本体(1)とともに硬化前の樹脂含浸炭素紐体で一体成形されて」との構成は、本件発明の「前記竿体とともに繊維強化樹脂で一体成形されて」との構成に含まれる。そして、本件発明の「釣糸支持突条」も被告製品の「突条体(4)」も、いずれも「釣糸通路の内面に螺旋帯状に配置された断面台形状で上辺角部に弧状部を有」している点も同一である。
よって、被告製品の構成bは、本件発明の構成要件Bである、「前記竿体とともに繊維強化樹脂で一体成形されて前記釣糸通路の内面に螺旋帯状に配置された断面台形状で上辺角部に弧状部を有する釣糸支持突条とを備えた」という構成を充足する。
(二) 本件発明の構成要件Bには、「釣糸支持突条」は、「竿体とともに繊維強化樹脂で一体成形されて」と極めて明瞭に記載されており、何ら不明瞭な点はない。
被告は、本件発明の釣糸支持突条が竿体を形成する「繊維強化樹脂」そのものであると解すべきであるとし、【0013】、【0003】、【0004】の記載を挙げる。しかし、被告の指摘する【0013】の「別部材」との記載は、釣糸支持突条が「金属リング」等で形成されて竿体と一体成形されていないものを意味しているのであり、このことは、【0003】から【0004】の記載から明らかである。
また、被告は、本件明細書の実施例の記載からも、本件発明の釣糸支持突条が竿体を成形する「繊維強化樹脂」そのものであると解すべきだと主張するが、あくまで実施例にすぎず、その記載から本件発明の釣糸支持突条が竿体を形成する繊維強化樹脂そのものに限定されるわけではない。特に、図7の製造例4のものは、釣糸支持突条40を構成するプリプレグテープを巻回した後に竿体を構成するガラスクロス層141を巻回し、更にプリプレグ層とガラスクロス層を交互に巻回した後に焼成して一体成形したものである。
さらに、被告は、【0005】、【0006】、【0024】の記載も指摘するが、【0005】、【0006】は従来技術を記載した部分であり、【0024】は実施例を記載した部分である。本件発明の目的は、「釣糸に対する接触抵抗を十分に小さくするとともに釣糸及び釣糸の支持構造の損傷を防いで耐久性を高めることにある。」(【0008】)というものであり、その効果も「前記のような釣糸支持突条を備えていることにより、釣糸に対する接触抵抗が十分に小さくなり、釣糸のスムーズな繰り出しおよび巻き取りが行える。また、釣糸および釣糸支持突条の損傷を防止して耐久性を高めることができる。」(【0043】)というものであるから、実開平五ー八八二五九号公報記載の技術(実用新案第二五三三二二四号)を前提にしたものでなければならないということはない。また、被告は、【0005】に記載されている右実用新案権に対する無効審判(平成九年審判第一二六六八号)の審決についても言及するが、本件発明の解釈は本件発明の明細書の記載によるべきであり、本件発明とは異なる実用新案権に対する審決を引用して解釈することは意味がない。
(三) 本件発明の構成要件Bにいう「帯状」は、釣糸の接触と何ら関係なく規定されており、被告がいうように、釣糸との接触長さが適度に確保される幅があることを意味すると解する必然性はない。被告が指摘する【0014】の記載は、むしろ「断面台形状」の作用であり、「帯状」とは関係がない。
被告製品の突条体が「螺旋帯状に配置され」ていることは明白である。
(四) 本件明細書の作用の欄には、「釣糸支持突条が竿体とともに繊維強化樹脂で一体成形されているので、・・・・・・釣糸からの接触抵抗力が加わっても釣糸支持体が剥がれたり損傷したりし難い。」(【0013】)と記載されており、釣糸支持突条の剥がれや損傷を防いでいるのは、あくまで第一次的には釣糸支持突条が竿体とともに繊維強化樹脂で一体成形されていることによるのであって、突条体が断面台形状である点は、右作用においては二次的な意味を有するにすぎない。断面台形状の作用効果は、むしろその後に記載されている、断面台形状の上辺の平坦面が釣糸に接触し、釣糸の接触長さが適度に確保されるので、点接触の場合に比べて接触個所に生じる応力が小さくなり、その結果、接触個所の摩耗が少なくなり、過大な応力で釣糸が損傷するのを防げるということが一次的なものである。
本件明細書には、「釣糸支持突条40は、釣糸14の全長にわたって設けておいてもよいし、釣糸30の支持に必要な一定の個所にのみ設けておいてもよい。釣糸支持突条40の形状や寸法を竿体14の場所によって変えておくこともできる。本願発明の釣糸支持突条40と、従来の釣糸支持構造を併用することもできる。」(【0040】)と記載されているのであって、すべての釣糸支持突条が断面台形状である必要はない。そして、実際の使用場面では、竿の屈撓性質により、魚がかかっていない場合には、主に穂先内面へ釣糸による接触圧がかかり、魚がかかった場合には、太径竿内面へ釣糸による接触圧がかかるから、釣糸が傷つきやすいかどうかは、これらの部分の突条部の断面形状に最も左右されることとなる。したがって、本件発明においては、必ずしもすべての釣糸支持突条が、「断面台形状で上辺角部に弧状部を有する」必要はなく、特に穂先竿と太径竿における突条部の断面形状が少なくとも重要になってくるのである。
被告製品は、少なくとも穂先内面及び太径竿内面の突部断面形状が、断面台形状で上辺角部に弧状部を有していることは明白であり、本件発明の構成要件Bにおける「断面台形状で上辺角部に弧状部を有する」構成を有している。
【被告の主張】
(一) 「竿体とともに繊維強化樹脂で一体成形され」との構成について
(1) 本件発明の構成要件Bにいう「竿体とともに繊維強化樹脂で一体成形され」については、「とともに」が時間的な限定を意味するのか、位置的な限定を意味するのか、あるいは両者を意味するのか不明瞭であり、さらに釣糸支持突条の「繊維強化樹脂」と竿体の「繊維強化樹脂」との関係が不明瞭である。
(2) そこで、本件明細書の記載を参酌すると、まず、【0013】には、発明1の作用に関し、「発明1の中通し竿では、螺旋帯状をなす釣糸支持突条が竿体とともに繊維強化樹脂で一体成形されているので、釣糸支持突条を(竿体とは)別部材で構成するものに比べて製造が容易であり、しかも、釣糸からの接触抵抗力が加わっても釣糸支持突条が剥がれたり損傷したりし難い。」と記載されている。すなわち、「釣糸支持突条が竿体とともに繊維強化樹脂で一体成形され」という要件の中から、「釣糸支持突条を(竿体とは)別部材で構成するもの」を明確に排除している。
同様のことは、【0003】、【0004】の記載からも看取できる。ここでは、特開平四ー三四一一三三号公報に言及しているが、この公報に記載されている発明は、断面円形の線状体からなる案内リングを釣糸通路の内周に螺旋状に埋め込み釣糸を支持することで摺動抵抗を減らす技術であり、同公報には、線状体の一部が竿体に埋め込まれているだけなので、釣糸から加わる力で線状体が竿体から外れやすいという問題があると記載されている。したがって、出願人(実用新案権者)は、釣竿支持突条に相当する釣竿支持突条用の案内リングを竿体とは別途に成形した構成について、本件発明から意図的に排除しているのである。
これに加え、【0025】以降に記載されている具体的製造例は、いずれも釣糸支持突条が竿体を成形するプリプレグテープから構成されていることからすれば、本件発明にいう「釣糸支持突条」とは、竿体を成形する繊維強化樹脂で一体成形されているものであると解するのが相当である。
以上に述べたとおり、本件発明において、釣糸支持突条を別部材で成形する技術を排除していること、及び、実施例はいずれも釣糸支持突条が竿体を成形するプリプレグテープから成形されていることに照らすと、本件発明の「釣糸支持突条が竿体とともに繊維強化樹脂で一体成形されて」とは「釣糸支持突条が竿体を成形する繊維強化樹脂で一体成形されて」と解釈するのが相当である。
(3) 右解釈は、【0005】、【0024】、【0006】の記載からも根拠づけられる。すなわち、【0005】では、原告の出願に係る実開平五ー八八二五九号公報を、「繊維強化樹脂で竿体を製造する際に用いるマンドレルに、樹脂テープを螺旋状に巻回しておき、その上にプリプレグを巻回して焼成し、製造された竿体の内面から樹脂テープを取り除くことで、竿体の内面に螺旋帯状の凹凸を形成する」技術として引用している。一方、同【0024】では、本件発明の構造の釣糸支持突条の製法に関し、「上記のような構造の釣糸支持突条40を竿体14に設けるには、前記した実開平5ー88259号公報に開示された製造技術が適用できる。」として、本件発明と実開平五ー八八二五九号公報記載の考案とが、その製造法において共通することが示されている。しかしながら、右の実開平五ー八八二五九号公報は、引用個所の記載から明らかなように、竿体を成形するプリプレグ自体で竿体の内面に螺旋帯状の凹凸を成形する技術である。したがって、これと同じ製法で作られるとした本件発明も、釣糸支持突条が「竿体を成形する炭素強化樹脂で一体成形されている」ことを示すものに他ならない。
さらに、実開平五ー八八二五九号公報は、実用新案登録第二五三三二二四号として登録されたものであり、これに対する無効審判(平成九年審判第一二六六八号)において、平成一一年四月九日、原告の訂正請求が認められるとともに、訂正請求に係る考案を対象として審決がなされ、現在確定している。この確定審決の中で、審判官は、「訂正発明1は、突出部2は、適当な厚みを有する樹脂テープを所定間隔で巻回し、その後前記プリプレグを巻回して焼成し、芯材、樹脂テープを除くことにより成形されたものであり、要するに、突出部(2)は、前記突出部用のプリプレグからではなく、竿体を成形するプリプレグから成るものである。」と認定している。したがって、この審決も併せ考慮すれば、本件発明も同様に、釣糸支持突条が、別途釣糸支持突条用の炭素強化樹脂からではなく、竿体を成形する繊維強化樹脂からなるものであることは更に明らかであるといい得る。
(4) 被告製品の突条体は、竿体とは別部材で構成されており、竿体を成形する繊維強化樹脂からは構成されてはいない。すなわち、被告製品の竿体は、プリプレグシートで構成されているのに対し、突条体は、エポキシ樹脂を含浸した多数の炭素繊維(約三〇〇〇本)を一メートル当たり約二〇五回撚った紐体で構成されている。そして、この構成の突条体は、竿体を構成し得るものではないし、事実、突条体は竿体のプリプレグとは別部材である。
したがって、被告製品は、「竿体とともに繊維強化樹脂で一体成形され」という構成を備えていない。
(二) 「螺旋帯状に配置された」との構成について
「帯状」とは所定の幅を有した長尺のものを指す概念である。また、本件明細書では、本件発明の作用に関し、「断面台形状の上辺の平坦面に釣糸が接触し、釣糸との接触長さが適度に確保されるので、点接触の場合に比べて接触個所に生じる応力が小さくなる。その結果、接触個所の摩耗が少なくなり、過大な応力で釣糸が損傷するのを防げる。」と記載されている(【0014】)。したがって、本件発明の帯状とは、釣糸との接触長さが適度に確保される幅があることを意味するものと解される。また、先に引用した【0004】の従来技術の説明では、断面円形の線状体と断面円形の釣糸とは点接触するので問題があると述べており、点接触する断面円形の線状体を本件発明から意図的に排除している。
さらに、本件発明の釣糸支持突条は、【0013】の作用の説明によれば、「帯状」に形成することによって、釣糸が接触する「上辺の平坦面」に沿って繊維が平坦面に積層され、「その結果、接触個所の摩耗が少なくなり」得る効果を奏することとなるのであり、「帯状」が本件発明にとって欠くことができないものであるために、本件発明の構成の一部とされているのである。
したがって、本件発明の断面台形状の釣糸支持突条の上辺平坦面の幅形成を意味する「帯状」とは、当然に接触個所の摩耗が小さくなる効果を有する程度の釣糸の接触長さを適度に確保できる幅を意味する。
被告製品の設計思想は、釣糸との接触長さを可能な限り短くして、接触長さに比例して増大する摺動抵抗を少なくし、もって、釣糸の繰り出し及び巻き取りをスムーズに行いやすくすることである(これは、【0001】から【0003】に記載されている従来技術に対応している。)。このような理由から、被告製品では、釣糸と接触する個所を曲面状(ボタ山状)とし、あるいは可能な限り釣糸と接触する幅を狭くしている。したがって、突条体の断面形状がボタ山状のものは、釣糸と点接触する螺旋線状なので、本件発明でいうところの「螺旋帯状」に該当しない。
(三) 「断面台形状で上辺角部に弧状部を有する釣糸支持突条」との構成について。
本件発明の断面台形状は、【0014】の記載から明らかなように、釣糸との接触長さが適度に確保される長さを有する平坦面を備えたものである。また、上辺角部の弧状部は、【0015】に記載されているように、断面台形状の場合に、角部に釣糸が接触して釣糸が傷ついたり、逆に角部が欠けたりするのを防ぐため、また、釣糸支持突条と釣糸との接触がスムーズになるので、接触抵抗が減り、釣糸の繰り出しや巻き上げも行いやすくなることを意図して設けられている。したがって、本件発明でいう断面台形状とは、その上辺の平坦面の釣糸が接触し、釣糸との接触長さが適度に確保され、その結果、接触個所の摩耗が小さくなるという効果を有するものをいう(【0014】)。
中通し竿の場合、一部分でも突条体が竿体より剥がれることがあれば、その個所での釣糸と竿管内周面との間の摩擦が大きくなり、その結果ここで目詰まりが生じやすくなる。いったん目詰まりが生ずると、目詰まり個所が更なる摩擦の増大を招き、釣糸の移動を阻害し、釣糸の放出・巻取りが困難になり、ひいては不可能となる。したがって、本件発明によれば、釣糸支持突条のいずれの個所をとっても構成要件Bの「竿体とともに繊維強化樹脂で一体成形、断面台形状、上辺角部に弧状部」を備えていなければ、本件発明の効果を発揮できないものである。すなわち、釣糸支持突条の一部でも、この構成要件Bの構成を備えていないと、この部分で剥がれやすく、釣糸が点接触状態となり、摩擦が大きくなるとともに過大な応力で釣糸が損傷することとなる。中通し竿においては、一個所でも目詰まりが生ずると釣糸の放出・巻取りが困難になり、ひいては不可能となるのであるから、被告製品のように直線状部がない比率が高いと、突条体が損傷する可能性が高くなり、上記の釣糸の放出・巻き取りが不可能となる可能性が極めて高くなる。すなわち、本件明細書の記載に従えば、「釣糸支持突条が剥がれたり損傷したりし難く」、「釣糸との接触長さが適度に確保されるので、点接触の場合に比べて接触個所により生じる応力が小さくなる。その結果、接触個所の摩擦が小さくなり、過大な応力で釣糸が損傷するのを防げる」という本件発明の作用効果を奏しなくなるのである。
原告は、穂先部と太径部が特に重要である旨述べるが、本件発明の特許請求の範囲にも、本件明細書の発明の詳細な説明にも、そのようなことは一切記載されていない。また、中通し竿の実際の使用時には、釣糸は、竿内を高速で移動し、この時、いずれの個所の釣糸支持突条に対しても同じ高速度で移動し、摩擦熱が生ずるのであり、また、その屈撓も経時的に大きく変動するから、穂先、太径竿部分の支持突条が傷つきやすいということはできない。
さらに、【0013】、【0014】の記載によれば、突条体の竿体からの剥がれを防止しているのは、突条体が竿体とともに繊維強化樹脂で一体成形されていることと、断面台形状であることによるのは明らかである。したがって、「突条体が竿体とともに繊維強化樹脂で一体成形されている」という要件はすべての突条体に必要であるが、「断面台形状」という要件がすべての突条体には必要がないという原告の主張は根拠がない。
被告物件の突条部は別添写真のとおりであり、その多くは直線状部を有していないので、台形(一組の対辺が平行な四辺形)ではない。被告製品の突条体はボタ山状であり、釣糸と接触する側がもともと曲面(直線ではない)なので、断面台形状に弧状部を設けるという構造とはなり得ない。また、釣糸と接触する幅が狭い形状のものについても、弧状部が設けられていない。そして、一部の釣糸支持突条が本件発明の構成を有していないと、本件発明の作用効果を達し得ないのであるから、多くの突条体が断面台形状を備えていない被告製品においては、本件発明の作用効果は奏し得ないことになる。
したがって、被告製品は、本件発明の構成要件Bのうち、「断面台形状で上辺角部に弧状部を有する釣糸支持突条」という構成を備えていない。
3 争点3(損害)について
【原告の主張】
(一) 被告は、本件特許権の登録日である平成一〇年一月二三日から同年六月末日までの期間に、イ号物件を一本当たり四万五六〇〇円で合計五〇〇〇本、合計二億二八〇〇万円分製造、販売し、ロ号物件を一本当たり二万八六〇〇円で合計七五〇〇本、合計二億一四五〇万円分製造、販売した。したがって、被告が右期間に製造、販売したイ号物件、ロ号物件の販売総額は、四億四二五〇万円である。
原告が製造、販売する同種の釣竿における利益率から考えて、被告の被告製品の販売における利益率は、五パーセントを下ることはない。したがって、被告が右期間にイ号物件及びロ号物件を製造、販売したことにより得た利益は、二二一二万五〇〇〇円となり、右金額は原告の損害と推定される。
(二) 被告は、平成一〇年八月一日から同年一一月三〇日までの期間に、ハ号物件を一本当たり二万七一〇〇円で合計八〇〇〇本、合計二億一六八〇万円分を製造、販売した。
前記のとおり、被告の被告製品の販売による利益率は販売価格の五パーセントを下ることはないから、被告が右期間にハ号物件を販売したことにより得た利益は、一〇八四万円となり、右金額は原告の損害の額と推定される。
(三) よって、原告は、被告に対し、金三二九六万五〇〇〇円及び内金二二一二万五〇〇〇円に対する本件訴状送達の日の翌日である平成一〇年七月二五日から、内金一〇八四万円に対する同年一二月一日から、それぞれ支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いを求める。
【被告の主張】
いずれも争う。
第三当裁判所の判断
一 争点1について
1 被告製品が、
a 炭素繊維に樹脂を含浸させた炭素繊維強化樹脂からなり内部に釣糸を挿通する管状体本体(1)と、
b 前記管状体本体(1)とともに硬化前の樹脂含浸炭素紐体で一体成形されて釣竿通路(2)の内面に螺旋状に配置された突条体(4)とを有する
c 中通し竿。
との構成を有することは、当事者間に争いがない。
2 そこで、被告製品の突条体の断面の形状について検討するに、証拠(甲10、乙4ないし6、14ないし16)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品の突条体の断面の形状は、別添写真のとおりであると認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
この点、原告は、被告製品の突条体は断面台形状で上辺角部に弧状部を有すると主張し、被告製品の突条体の断面の拡大写真であるとして甲5ないし8を提出する。確かに、右各証拠によれば、被告製品の突条体の一部分は、断面において上辺に該当する部分が竿体の略軸方向に対して水平となっており、全体の形状としては略台形状であることが認められるが、その撮影個所は、イ号物件(甲5)及びロ号物件(甲6)についてそれぞれ四個所、ハ号物件について八個所(甲7)及び九個所(甲8)にすぎず、しかも、当該写真の中には、突条体の断面形状が台形状であるとはいい難いものが多く含まれていることが認められる。そして、証拠(乙4ないし6、14)によれば、被告製品の突条体の断面形状は、別添写真のとおり、それぞれの部分において異なり、イ号物件及びロ号物件については、突条体の断面形状が略台形状である部分も存するものの、上辺が凸形の曲面状であって竿体の軸芯方向に対して水平ではない部分も多く存すること、ハ号物件については、むしろ、突条体の断面形状における上辺は凸形の曲面状であって、台形状となる部分は存在しないことが認められる。
そうすると、被告製品の突条体の断面形状について、これを断面台形状で上辺角部に弧状部を有すると表現するのは妥当ではなく、その形状は、別添写真のとおりであると認めるのが相当である。
二 争点2について
1 特許発明の技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならず、この場合においては、明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して、用語の意義を解釈しなければならない(特許法七〇条一項、二項)。
2 「断面台形状で上面角部に弧状部を有する釣糸支持突条」の意味について
(一) 本件明細書の特許請求の範囲の記載から、本件発明の構成要件B中の「断面台形状で上辺角部に弧状部を有する釣糸支持突条」との構成の意義を検討すると、構成要件B中の他の部分において、釣糸支持突条が「竿体とともに繊維強化樹脂で一体成形され」、かつ、「釣糸通路の内面に螺旋帯状に配置され」ていることが記載されていることからすれば、本件発明における釣糸支持突条は、竿体の内周面に、断面形状を同じくする一連の帯形状で螺旋状に、一本あるいは複数本、竿体と同一素材で一体形成されているものと解することができる。そして、釣糸支持突条の断面形状は、台形状であり、かつ、上辺(竿体の軸芯に近い一辺)とこれに接する二辺とで形成する二つの角部が、弧状になっているものと解することができる。しかし、本件発明の特許請求の範囲の記載からは、釣糸支持突条が具体的にいかなる形状であれば、本件発明の「断面台形状で上面角部に弧状部を有する」との形状にかかる要件を充足するのか、その外延が明確でなく、また、当該形状の釣糸支持突条が、釣糸通路の内面のいかなる範囲に配置されていることを要するか(他の断面形状を有する釣糸支持突条が配置されているものを排除する趣旨か)については、一義的に明確に規定されているとはいい難い。
(二) そこで、この点につき、本件明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面をみると、証拠(甲2)によれば、本件明細書の発明の詳細な説明の欄には、次のとおりの記載があることが認められる。
(1) 【従来の技術】として、
ア 「特開平4ー341133号公報には、断面円形の線状体からなる案内リングを、釣糸通路の内周に一部が突出する状態で埋め込んでおく技術が示されている。」との記載(【0003】)
イ 「しかし、この技術では、・・・・・・断面円形の線状体と断面円形の釣糸とは点接触をするので、接触点に大きな応力が発生し線状体が外れ易くなる。また、大きな応力が生じると、線状体あるいは釣糸がすり切れたり釣糸の耐久性が損なわれるという問題も生じる。」との記載(【0004】)
ウ 「このような問題を解決する技術として、実開平5ー88259号公報に示された技術がある。この技術は、繊維強化樹脂で竿体を製造する際に用いるマンドレルに、樹脂テープを螺旋状に巻回しておき、その上にプリプレグを巻回して焼成し、製造された竿体の内面から樹脂テープを取り除くことで、竿体の内面に螺旋帯状の凹凸を形成する。この螺旋帯状の凹凸のうち凸部を釣糸の支持構造として利用する。」との記載(【0005】)
エ 「この技術では、・・・・・・凸部の先端面にはある程度の面積があるので釣糸との接触面積が適度にあり、凸部および釣糸に過大な接触応力が発生するのを防止できる。」との記載(【0006】)
(2) 【発明が解決しようとする課題】として、
ア 「前記した螺旋帯状の凸部を用いる技術では、螺旋帯状の凸部の配置形状によって、釣糸の支持機能に大きな違いが生じる。凸部の形状によって、釣糸に対する接触抵抗が過大になったり、釣糸が損傷し易くなったりする。また、竿体と一体成形された凸部であっても、釣糸から加わる接触抵抗力が過大になったり長期間使用していると、竿体の本体部分から剥がれたり変形したりすることがある。」との記載(【0007】)
イ 「本発明の目的は、釣糸に対する接触抵抗を十分に小さくするとともに釣糸および釣糸の支持構造の損傷を防いで耐久性を高めることにある。」との記載(【0008】)
(3) 【課題を解決するための手段】として、「発明1の中通し竿は、竿体と釣糸支持突条とを備えている。・・・・・・釣糸支持突条は、竿体とともに繊維強化樹脂で一体成形されて釣糸通路の内面に螺旋帯状に配置され断面台形状で上辺角部に弧状部を有する。」との記載(【0009】)
(4) 【作用】として、
ア 「釣糸支持突条が断面台形状であるので、断面矩形状の場合などに比べて機械的強度および耐変形性が高まり釣糸支持突条の剥がれや損傷が防げる。また、断面台形状の上辺の平坦面に釣糸が接触し、釣糸との接触長さが適度に確保されるので、点接触の場合と比べて接触個所に生じる応力が小さくなる。その結果、接触個所の摩耗が少なくなり、過大な応力で釣糸が損傷するのを防げる。」との記載(【0014】)
イ 「断面台形状の上面角部に弧状部を有するので、角部に釣糸が接触して釣糸が傷ついたり、逆に角部が欠けたりすることが防げる。また、釣糸支持突条と釣糸との接触がスムーズになるので、接触抵抗が減り、釣糸の繰り出しや巻き上げも行い易くなる。」との記載(【0015】)
(5) 【発明の効果】として、「発明1の中通し竿は、前記のような釣糸支持突条を備えていることにより、釣糸に対する接触抵抗が十分に小さくなり、釣糸のスムーズな繰り出しおよび巻き取りが行える。また、釣糸および釣糸支持突条の損傷を防止して耐久性を高めることができる。」との記載(【0043】)
(三) 右の本件明細書の各記載及び実施例の記載をも参酌すると、本件発明の課題及び課題を解決する手段、本件発明の作用効果等について、次のとおり認めることができる。
(1) 中通し竿において、釣糸と釣糸通路の内周面の線状体が点接触する構造の従来技術では、線状体に大きな応力が生じて線状体が外れやすくなったり、釣糸や線状体がすり切れたりするという問題点があった。また、竿体と同一の素材で内周面にある程度平面のある突条を一体成形する従来技術では、右問題点は一定程度解決するものの、突条の配置形状によっては右と同様の問題を生じるものであった。
(2) 本件発明は、右(1)の問題点を解決するために、特許請求の範囲記載の構成を採用したものであり、この構成により、釣糸支持突条が断面台形状であるので断面矩形状などの場合に比べて機械的強度及び耐変形性が高まり釣糸支持突条の剥がれや損傷を防ぐことができるとともに、断面台形状の上辺の平坦面に釣糸との接触長さが適度に確保されるので、点接触の場合と比べて接触個所に生じる応力が小さくなる結果、接触個所の摩耗が少なくなり、過大な応力で釣糸が損傷するのを防ぐことができるという作用を有する。
(3) また、本件発明は、断面台形状の上面角部に弧状部を有するので、角部に釣糸が接触して釣糸が傷ついたり、逆に角部が欠けたりすることを防ぐことができるとともに、釣糸支持突条と釣糸の接触がスムーズとなるので、接触抵抗が減り、釣糸の繰り出しや巻き上げも行いやすくなるという作用効果を有する。
(四) そうすると、本件明細書の記載を参酌して検討すれば、本件発明において釣糸支持突条が「断面台形状」であるとの点は、その形状自体から機械的強度、耐変形性を高めるとともに、釣糸と釣糸支持突条の上辺の平坦面との接触長さを適度に確保することにより、接触個所に生じる応力を小さくし、もって、接触個所の摩耗や損傷を避けるという目的を有するものであり、中通し竿の通常の使用態様において、右のような作用を生じるに足りる形状であることが必要であるということができる。また、釣糸支持突条が「上辺角部に弧状部を有する」との点は、台形角部に釣糸が接触して、釣糸、釣糸支持突条が損傷するのを避けるという目的を有するものであり、同様に、中通し竿の通常の使用態様において、右のような作用を生じるに足りる形状であることが必要であるということができる。
また、本件明細書には、実施例中の記載ではあるものの、「本願発明の釣糸支持突条40と、従来の釣糸支持構造を併用することもできる。」(【0040】)と記載されていることからすれば、竿体の内周面に配置される釣糸支持構造としては、すべてにわたって「断面台形状で上面角部に弧状部を有する」ものである必要はなく、ある部分においては、釣糸と釣糸支持体とが点接触となるような形態のものを配置することも許されるものと認められる。
(五) そこで、次に、本件発明の対象物である中通し竿の通常の使用における釣糸と釣糸支持突条の接触態様について検討すると、証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば、中通し竿においては、竿元に配置されたリールから引き出された釣糸を竿の中空部分を通して竿先から引き出して使用するものであることが認められる。そうすると、中通し竿の通常の使用態様においては、釣糸の先に付けられた仕掛けをキャスティングにより投げる場合には、釣糸は、竿元側から穂先側へ高速に移動することとなり、この際に釣糸は竿体内部で軸芯方向と垂直方向にぶれが生じるものと考えられるから、釣糸は竿体内面に螺旋状に配置された釣糸支持突条の内周面(軸芯に近い部分)のあらゆる部分に接触し、いずれの個所においても釣糸と釣糸支持突条の間に摩擦が生じるものと考えられる。また、リールにより釣糸を巻き取る場合には、釣糸は、穂先側から竿元側へ緊張状態を保ちながら移動することとなり、この際には、螺旋状に配置された釣糸支持突条の内周面のうち、軸芯に略平行な一部分に接触するものと考えられる(いかなる部分に接触するかは、竿元側に設けられる釣糸導入口の配置位置と、いかなる角度に釣竿を立てて釣糸を巻き取るかによるものと解される。)。
この点、原告は、釣糸と釣糸支持突条の接触は、穂先竿部分と太径竿部分において生じると主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はなく、釣竿の屈撓を考慮に入れたとしても、中通し竿の通常の使用態様において、釣糸と釣糸支持突条の接触は右のとおりの態様で生じると解されるから、これを採用することはできない。
また、前記のとおり、本件発明の中通し竿は、内面に螺旋状の釣糸支持突条を配置したものであるから、この一部分に剥離が生じた場合には、当該部分の摩擦抵抗が大きくなり、当該剥離が他の部分に波及して更に大きな剥離を生じるものと解される。
そうすると、本件発明の中通し竿においては、竿体の内周面に螺旋状に配置された釣糸支持突条のいずれの位置にも釣糸が接触するものであり、かつ、釣糸支持突条の一部分において剥離が生じた場合には、釣糸支持突条の他の部分にも影響を与えて釣糸に損傷を与え、ひいては中通し竿としての機能を十分に発揮し得なくなるものと解されるから、前記の本件明細書の実施例中の記載を考慮したとしても、釣竿内周面の大部分に、右のような釣竿支持突条の剥離、あるいは、釣糸の損傷が生じるのを避けるための構成である「断面台形状で上辺角部に弧状部を有する釣糸支持突条」が設けられていなければならないというべきである。
(六) そうすると、本件発明における釣糸支持突条は、釣糸支持突条の上辺に、釣糸との接触個所の摩耗を少なくし、応力の発生を少なくすることにより、釣糸及び突条の損傷を防ぐことができる程度の広さを有する平坦面と、釣糸が接触して損傷したり、釣糸支持突条が欠けたりすることを避け得るような弧状部とを備える形状であることを要し、かつ、竿体の内周面に右形状の突条が、中通し竿の通常の使用態様において釣糸支持突条が釣糸と接触し得る大部分に螺旋状に配置されていることを要するものと解するのが相当である。
3 前記一2で認定判断したとおり、被告製品における突条体の断面形状は別添写真のとおりであり、それぞれの部分において異なり、イ号物件及びロ号物件については、突条体の断面形状が台形状である部分も存するものの、上辺が凸状の曲面状であって竿体の軸芯方向に対して水平ではない部分も多く存するし、ハ号物件については、むしろ、突条体の断面形状における上辺は凸状の曲面状であって、台形状となる部分は存在しないものである。そして、これらの断面における上辺が凸状の曲面状であって竿体の軸芯方向に対して平行ではない突条体においては、前記の中通し竿の通常の使用態様において、釣糸を繰り出す場合、あるいは釣糸を巻き取る場合には、釣糸と突条体は、点接触をするものと解される。また、イ号物件及びロ号物件において、突条体の断面の全体形状が台形状である部分についても、その多くが上辺角部に弧状部が設けてあるとはいい難い形状であり、この形状をもって、釣糸が損傷したり、釣糸支持突条が欠けたりすることを避け得るとは考え難い。そうすると、被告製品の突条体のうち、右のような形状を有する部分は、本件明細書にいう、「接触点に大きな応力が発生し線状体が外れ易くな」り、「線状体あるいは釣糸がすり切れたり釣糸の耐久性が損なわれる」(【0004】)という、従来技術の問題点を回避し得ず、また、「断面台形状の上辺の平坦面に釣糸が接触し、釣糸との接触長さが適度に確保されるので、点接触に比べて接触個所に生じる応力が小さくな」り、「その結果、接触個所の摩耗が少なくなり、過大な応力で釣糸が損傷するのを防げる。」(【0013】)という本件発明の作用を生じず、「釣糸に対する接触抵抗が十分に小さくなり、釣糸のスムーズな送り出し及び巻き取りが行え・・・・・・釣糸及び釣糸支持突条の損傷を防止して耐久性を高めることができる。」(【0043】)という効果を奏し得ないものということができる。
そして、被告製品においては、このように本件発明の課題を解決し得ず、作用効果を奏し得ない突条体が、被告製品の内周面に設けられた突条体中に多く存在するのであるから、被告製品の突条体が、「断面台形状で上辺に弧状部を有する釣糸支持突条」を備えているということはできず、被告製品は、いずれも、本件発明の構成要件Bを充足しないというべきである。
4 したがって、被告製品は、いずれも本件発明の技術的範囲に属しない。
三 よって、その余について判断するまでもなく原告の請求は理由がない。
(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 水上周)
<以下省略>